植物工場について少し調べてみると「植物工場は5~6割が赤字で儲からないビジネスである」といった報道・記事などを多く発見できるかと思います。この数字は、半分は正しく・半分は間違っているといえます。
【 要約① 小さな理由 】
- 失敗事例が注目され、多く報道される傾向あり【失敗&倒産などのキーワードの方が多い】
- 成功企業は、その理由・具体的な取組みを公開しておらず、公のメディアでは報道されにくい
【 要約② 最大の理由 】
- 黒字化や赤字について、具体的な割合を紹介している場合、基本となる元データは「一般社団法人施設園芸協会」による「次世代施設園芸地域展開促進事業(全国推進事業)」にある【全国の植物工場施設へのアンケート調査】となります。
- 全国にある全ての稼働施設がアンケートの調査対象となっており、企業の実証施設や商談ルーム(技術ショールーム)など、小規模な植物工場も全て含まれています
- リーフレタス換算 1,000株/day 以下の植物工場は、全体の70%を占めており、特別な事例を除き、その多くが生産規模が小さいために赤字となっています。これが赤字割合が多い主な理由となります。
小規模施設が全体の7割・多くの施設が赤字
以下の表は、2017年時点にある全国の完全人工光型・植物工場の施設一覧:全197カ所を対象に、弊社が独自に調査・情報整理した結果となります。
リーフレタス換算にて「100株/day」以下が全体の半分弱となっており、リーフレタスの生産・販売モデルでは利益化ラインである「1,000株/day」以下でみると、全体の70%を占めています。
なお、この施設規模別の割合構成(%)は、2020年時点でも変わりません。
※ リーフレタス換算、利益化・黒字化ラインの「1,000株/day」などの詳細は左の関連記事に掲載しています。
リーフレタス換算にて「1,000株/day」以下の小規模施設のうち、高単価な作物への切り替えを実現した施設、または「障がい者雇用型」「教育向けの小型キット」「レストランなどの店舗併設型」など、小規模モデル(少ない投資額)でもビジネスとして成立できる事業プランを展開している場合を除き、それ以外の施設は、生鮮野菜の生産・販売事業としては赤字となります。
よって、全国に稼働する植物工場施設(人工光型)のうち、全体の5~6割といった施設が赤字になることは正しい、といえます。
大規模施設では【7割】程度が黒字化
上記の全体に占める赤字割合は正しいですが、一方で、大規模施設だけを対象にした調査では異なる結果となります。
例えば「リーフレタス 3,000株/day~、稼働後3年が経過した施設」だけを対象とした弊社の独自調査によると、全体の7割が黒字化を達成しています*。
関連記事でも解説したとおり、自動化設備が持つ能力を最大限発揮させるためには、一定規模の面積が必要となり、逆にある程度の規模を稼働させ、販売先さえ確保できれば、黒字化を達成させることは難しい事業ではない、といえます。
* 2017年時点における「3,000株/day」の全国施設30カ所のうち、9カ所を対象とした弊社の独自調査
植物工場の利益率は『10%以下』
生鮮野菜の生産・販売モデルにて、黒字化を実現できたと仮定して、人工光型・植物工場ビジネスは儲かるのか?という質問には「他業種と比較すると、利益率も小さく、儲からない」という回答になります。
不動産や金融、IT業界などの利益率は10%を超え、20%や30%を超える企業も珍しくはありません。こうした業界と比較すると、植物工場は、生鮮野菜を生産するという点では「農業」と同じようなもので、利益率は低いです。
人工光型・植物工場(生鮮野菜の生産モデル)における成功事例の利益率は「3~5%」程度、減価償却が終わり・販路拡大や栽培ノウハウも蓄積(=生産コストの削減、歩留率UP・生産量UP)できる稼働年数が長い施設の場合でも、利益率は「5~7%」程度です。
植物工場における利益率:正確な数値でないこともある
植物工場の利益率について、一般的な「営業利益率」を想定しておりますが、調査によっては若干、異なる点にも注意が必要です。
例えば、新規事業として植物工場ビジネスだけを展開する企業もありますが、参入企業の多くが、製造業やIT、医療やインフラ・住宅メーカーなど幅広く、全ての異業種から参入するケースとなります。
その際、植物工場の担当者が既存事業と兼任したり、本業の予算や人材で営業活動や施設の運営を行うケースも多いです。(例えば、人件費は作業員のパートさんのみ。正社員の工場長は本業と兼任しており、植物工場の人件費に含まれていない 等)
弊社でも、できる限り正確に植物工場の利益率を算出するように努力はしておりますが、本ページに記載している植物工場の利益率も「営業利益率」と完全に一致するものではないことには注意して下さい。
また、この利益率については施設規模の大小、高付加価値野菜など栽培品目に関わらず、成功事例における利益率は同じ結果となっています。細かい理由は省略しますが、簡単に説明すると以下となります。
- 規模が大きく量産すれば、販売単価が落ちてしまう(リーフレタスの場合)。大量の野菜を購入するのは大手企業となり、取引単価も低く設定されることが多い
- 高単価な野菜を選択すれば、市場規模が小さいために施設規模が小さくなってしまう
【 要約・結果 】
- ここでの利益率は「営業利益率」に近い、という認識で問題ないが、若干条件が異なることも
- 植物工場における利益率は、業界平均ではなく、成功事例だけを示している
- 植物工場における成功企業で「3~5%」程度、稼働年数が長い施設は「5~7%」程度
- 上記の利益率は、規模の大小・栽培品目に関わらず、基本的には全て同じ結果になっている
植物工場ビジネスに未来はあるのか?
2021年時点でも、多くの企業が植物工場ビジネスに新規参入を果たしています。第3次ブームといわれた2009年~2010年頃の参入数と比較すると減少していますが、それでも、少なくとも年間20~30社以上の新規参入があります(プレスリリース等、情報公開している企業数)。
第3次ブームの際には、補正予算も含め約150億円以上の予算が組まれ、全国の大学施設や民間企業による実証施設が次々に建設されましたが、補助金目的の企業も多く、一種のバブル・過剰な状態になっていました。
今では、人工光型・植物工場の建設(国内市場)を主目的とした補助金はありませんが、一定数の新規参入もあり、正常な状態ともいえます。
第3次ブームの時代には、植物工場ビジネスに未来があるのか?100%自信を持って回答することができず、懐疑的な部分もありましたが、10年以上が経過した現在では、成長性のあるテーマと断言できます。
2019年時点でも、リーフレタスに限定すると国内生産量の約12%が人工光型・植物工場により生産されており、大手の外食チェーン・コンビニでも採用され、広く普及していることが分かります。『詳細は左の関連記事を参照』
また、リーフレタスの生産・販売モデルだけでなく、店舗併設型や障がい者雇用型など多様なビジネスモデルの出現と、教育や娯楽エンタメ、都市開発(住宅)、宇宙開発など異なる分野との融合・異なる市場への進出がスタートしています。
生鮮野菜の生産・販売モデルという現在のビジネスでは、低い利益率であっても、将来的には異分野と融合することで、大きなビジネスチャンスを含んでいることは間違いありません。
- 民間企業による宇宙旅行の実現が近づいている現在、NASAだけでなく、中国やロシアなどの国々でも宇宙分野での植物工場(人工光型)の実験が進められている。日本も含む世界各国が協力して運用している「国際宇宙ステーション(ISS)」では、小型の植物工場システムが導入され、野菜や花などが栽培されている。
- 世界200カ所以上で行われている都市開発・スマートシティー(環境都市)の中では、植物工場(太陽光・人工光の両方)が実験的に導入されており、モニターとして住民の意見やデータをフィードバックする取組みが既に行われている。