一部の富裕層だけが参加していた海上クルーズも、近年では、家族連れのファミリー層が休暇のために、何度も利用できるような大衆化したサービスも増えています。

今回は、カリブ海を拠点に運航させているロイヤル・カリビアン・インターナショナル社にて、中間層が多く乗船するカジュアル船「ハーモニー・オブ・ザ・シーズ」の取材をもとに、野菜や環境、そして植物工場ビジネスの可能性について検討してみたい、と思います。

海上クルーズ船の基本情報

カジュアル船「ハーモニー・オブ・ザ・シーズ」は、2016年5月に就航をスタートした船で、全長362メートル・幅66m、約22万トンの超巨大客船です。船内は東京ドーム10個分の広さがあります。

客室は18階建て、船の高さは東京タワーよりも高く、まるで街全体が移動しているかのようです。なお、1回に乗り込む乗客・乗員は約8,800名前後、うち乗客は約6,000名、スタッフは約2,000名以上となっています。

参加費用・宿泊費用について

カジュアル船「ハーモニー・オブ・ザ・シーズ」は、カリブ海を中心にクルーズするため、メインの参加者はアメリカの中間層です。多くの客室を「スタンダード」な部屋にすることで、手ごろな料金に設定されています。

それまでのクルーズ船では、一部の富裕層向けに、1カ月以上の船旅が基本だったものが、近年は家族向けをターゲットに1週間で巡る「カジュアル・クルーズ」が増えています

<7泊8日のクルーズ旅>

  • スタンダードな部屋
    • バルコニー付:11万円~/1名 (990ドル~/1名~)
    • バルコニー無(窓あり):10万円~/1名(903ドル~/1名)
    • バルコニー無(窓なし):約9万円~/1名  (835ドル~/1名)
  • スイートルーム(最上階のみ)
    • 全てバルコニー付:約70万円~/1名

費用には食事代金(24時間食べ放題)、娯楽も全て料金に含まれています。船内のアルコールは有料ですが、カードキーにて最後に一括清算します。

船内の紹介・アクティビティーについて

船内には基本的な娯楽が何でもあり退屈することはありません。スケート、ロッククライミング、船上サーフィン、ウオータースライダー、遊園地のような本格的アクテビティが満載です。

その他、25カ所のレストランやショッピングモール、高級ブランドショップや免税店も人気です。中でも最も混雑するのが、屋上にある4つのプールです。

求められる環境対策・サステナビリティ

航空業界を取材した時にも感じましたが、近年のクルーズ船の運営にも環境対策・サステナビリティーが求められています。

ゴミ処理については、2階にあるゴミ捨て場に全て集約されます。ただし、ゴミ収集に大きなスペースを確保できないことから、生ごみ・燃えるゴミは粉砕して、随時、船内にある焼却炉で処理しています。

また、ビン・缶・段ボールなどリサイクルできる素材は分別・粉砕・圧縮して、できる限りコンパクトにしています。

その他、節水対策も重要となります。例えば、船内にあるランドリールームでは、乗客の洋服・ガウン(寝巻)・タオル&シーツ類などを洗濯しますが、少ない水で汚れを落とせるような技術を導入しています

トイレの汚水処理も、船内に大型の浄化装置が整備されており、全てきれいにしてから海に流します

植物工場技術の転用・応用利用も可能

8Fデッキにあるセントラルパーク(植物園)

船内では、観賞用や環境対策に利用可能な植物の成長促進や最適環境を維持する技術も必要となります。特に、海上で大型の植物をきれいに維持させるためには、植物工場による環境制御技術を応用・転用できる場面もあるかと思います。

クルーズ船内の中央部にある『セントラルパーク(植物園)』には「2万ポット」以上の植物が栽培されており、50本以上の巨大な樹木が70トンの土の中で栽培されています

屋上にあるプールの水が降り注いだり、強風・潮風に当たるため、真水をかけることで、植物の表面を定期的に洗い流す作業を行っています。海上にあるクルーズ船という特殊な環境条件下では、普段とは異なる対策や技術が必要となります

船内の食事&調達する野菜・果物について

<食事について>

7日間毎日、異なるメニューを提供しており、メインダイニングは3,000席にもなります。24時間利用可能で、パンも船内で焼いており、毎日4万個以上のパンを作っています。

<野菜について>

1回(1週間)のクルーズでは、野菜で約36トン、果物で約20トンを積み込みます。この野菜や果物の仕入れ量は、周辺にある外食チェーン20~30店舗分にも相当する、といいます。

取材時における生鮮野菜・果物について、米国の大手生産企業「ドリスコール社 (Driscoll’s)」からイチゴやベリー類、レタス系・ベビーリーフ・ハーブ類などは米国生産者の「B & W 」から仕入れていました *。

*2019年8月取材時

植物工場ビジネスの可能性

本クルーズ船にて仕入れていたリーフレタス、ベビーリーフ・ハーブ類を生産していたB&W社の商品は、ほぼ全て大規模な露地栽培となっています。

船内では、大量の食事を短時間で調理する必要があるため、サラダなどは水で複数回洗った洗浄済みの生野菜ミックスの商品を仕入れることも多いそうです。

かつて、人工光型・植物工場にて葉野菜・ハーブ類を生産する企業からも営業があったそうですが、価格と仕入れ量(大量に仕入れる必要あり)の点で断った、といいます。ただし、トマトなどの果菜類は、米国・カナダなどにある太陽光利用型の植物工場にて生産された商品を一部、採用しているそうです。

植物工場が活躍するクルーズ船の誕生も近い?!

太陽光によるトマトなどの果菜類を除き、人工光型植物工場による葉野菜・ハーブ類の商品を納品することは、仕入量と価格という点で難しいように感じましたが、船内には有料の高級レストランも運営されており、少量しか必要のない野菜などは納品できる可能性があるようです

また、植物工場(人工光型)を導入して、少量需要の野菜を船内で栽培する、という事業モデルにも興味を示していました。

左) 高級レストランで提供されるサラダ。チョコレートやナッツを砕いたものを土に見せるような演出も | 右) カクテルを作る自動化マシーン

船内にあるセントラルパーク(植物園)では、苦労しながらも多くの植物を管理・維持しており、環境対策や乗客へのリラックス効果(快適性アップ)にも力を入れていました。1週間とはいえ、長時間を船の上で過ごすため、医療だけでなく普段の運動やリラックスできるサービスも重要になります。

また、船内にはカクテルを自動で作るマシーンも導入されており(右上写真)、ハイテク化・省力化に対して、大きな投資していることが分かります。

太陽光利用型も含め、植物工場と『生鮮野菜・省力化・自動化・環境・エンタメ性といった複合的な課題を解決できるような仕組みがあれば、近い将来、植物工場プラントを本格的に導入した大型クルーズ船が誕生する日も近いかと思います。

 

※ 本記事に記載の情報は、2019年8月取材時点のものとなります。

<引用写真(一部)>

  • ロイヤル・カリビアン・インターナショナル社
  • http://www.royalcaribbean.com